不動産の共有の問題点、留意点について
今回は、不動産の共有の是非について検討します。
まず、共有ですが、民法では、
(共有物の使用)
第二百四十九条 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
とされています。
共有物の一部しか使用できないわけではないことに要注意ですね。
登記の依頼を受けて不動産を確認する時に、共有にされている物件をよく見かけます。
当事務所では、共有の場合に起こりがちな問題を提示し、共有の解消をお勧めしています。
不動産登記の情報通の方の中には、不動産の共有は問題があると聞かれた方もおられるのではないかと思います。
どこが問題なのか、再度確認してみましょう。
売買や贈与、担保設定がしづらい
一番大きな問題は、この部分に起因すると考えられます。
もちろん、共有者全員で売買、贈与、担保設定すればよいのですが、全員がその取り扱いを行うことに賛同していないと難しいため、(厳密には、共有持分のみを処分できるが、価値がさがってしまう)共有者の人数や人間関係によっては、こういった扱いが難航する可能性があります。
最近では、高齢者の増加により、認知症による成年後見制度が普及することで、以前までは共有者全員で不動産を動かせたものの、成年後見人を選任して、その判断に従うことが増えていると考えられますので、より難航の可能性が高まっているとも言えます。
また、思いがけずに共有者のうち誰かが亡くなると、その人に対して相続が発生し、共有者が増えてしまう、もしくは、面識のない人が共有者になってしまう可能性があります。
こうなれば、共有物の処分等の合意を得ることがより困難になります。
例えば、子供のいない夫婦が共有名義で所有している場合に、相続が発生すると、遺言がなければ、かなり面倒なことになりそうです。
共有名義は、様々なパターンがあると思います。夫婦、親子、兄弟、事業の出資者…
仲の良いうち、健康なうちはよいのですが、何か問題があると、一気に不動産の処分可能性に問題を抱えることになります。
相続登記の際、安易に法定相続分により登記することは、このような問題が生じ得ることを念頭に置いて、できるだけ避けるか、早めに遺産分割を完了させて、遺産分割を登記原因とする持分移転登記をして、共有関係を解消しておくと良いでしょう。
特に、農地は、後で贈与や売買等により持分を移転するには、農地法第3条の許可が必要となり、条件を満たさなければ名義変更できない場合があることにも注意しましょう。
その場合でも、持分放棄や遺産分割を登記原因として移転することが可能な場合もあるので、気になる方は、是非、専門家に相談してください。
以上のとおり、安易な気持ちで共有にすることで、後々の処分等が困難になり、空家化、空地化につながる場合もあるでしょう。
さらに、新たな問題として、配偶者居住権の成否に影響が生じ得ます。
共有の場合だと、配偶者居住権が発生しない場合があります。共有者の保護のために仕方の無いことではあるのですが。
と、ここまで、散々共有関係にケチをつけてきたわけですが、それよりも大事なことがあると思います。
抽象的で申し訳ないのですが、信頼関係です。
上記は、基本的に、共有物を分割する当事者に信頼関係があったり、利害が清算できている場合にあてはまることですが、こういった事情がなければ、共有も検討の余地はあると思います。
例えば、親子で住んでいる不動産がその親子の共有名義の場合に、親世代の認知症対策として、共有持分を贈与し、子が単独で所有することにより共有状態を解消したとすれば、親はその不動産に対して名義を有しないことになり、不安定な立場に置かれることになるでしょう。
また、共有名義にしておけば、勝手に売却することが難しくなるので、例えば、思い入れのある実家等について、親が亡くなった後、兄弟で相続する場合に、名義を単独所有にしておけば、その1人から売却されてしまうかもしれませんが、共有にすることで、売却しづらくなると思います。
勝手なことをされることに対して、釘を刺しておくという意味では、一応、有用なのかもしれません。
少し話しはそれますが、収益用物件の収益配分や住宅ローン控除を目的とした計画的な共有、住宅新築や購入時の資金負担による共有もあろうかと思います。この辺りは、メリットとデメリットをよく検討して使い分ければよいと思います。
婚姻から20年経過等のタイミングを見計らって共有関係を解消しておくことも検討したいですね。
共有の問題解決のため、家族信託(民事信託)を利用することも有効かと思います。(詳しくは信託の記事でご紹介できればと思います。)
以上、共有に関する問題点を思いのまま挙げてきたわけですが、気になられたら、是非、専門家にご相談ください。
贈与税等が生じる可能性もあるので、税理士の先生のご協力も不可欠ですね。